警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「大丈夫?」
「はい、すみません」
「行こう、ハッチー」
心配して声を掛けてくれる紅林さんの顔すら見られない。
こんなの社会人失格だ。わかってるのに顔を上げられなくて、キヨに甘えて頭を彼の肩に寄っかからせてもらう。
天野さんの鋭い視線が刺さるのがわかる。
なんなの、どうしろっていうの?
私の知らない懐かしい話でもしてればいいじゃない。
社内のくだらない噂もこれで払拭出来るかもしれない。
最近では私が天野さんを誘惑してアシスタントに収まっているだとか、総務部長に色目を使って融通してもらったなんてバカみたいな話も聞こえてきた。
そんなくだらない話も、紅林さんの登場で霞んでしまえばいい。
天野さんには他の女の子になんか目が向かないくらい素敵な彼女がいるんだって。
きっと翔さんに振られた子だって、紅林さんを知ったら納得する。勝てっこないって納得せざるを得ない。
ランチを取った居酒屋から会社への帰り道。キヨには悪いと思いながらもひとことも話さずに歩いてきた。
午後の会議を終えて議事録をまとめた私は、天野さんではなく企画部の課長に許可を取って定時にそそくさと会社を出た。