警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
向かったのは光ちゃんの勤める『ダイニングバー Karin』。
私の顔があまりに酷かったのか、光ちゃんもマスターもとても心配してくれて、申し訳無さに更に落ち込む。
「どうしたの、俺にも言えない?」
「なにがあったとかじゃないの。心が落ち着かなくて」
「うん」
まだお客さんが少ないからと、光ちゃんはカウンターから出てきて私の隣に座って話を聞いてくれる。
『Karin』はカウンターでもゆっくり食事やお酒を楽しめるようにと、小さな丸いスツールではなく革張りで背もたれのあるカウンターチェアが配されている。
「勝手にもやもやして、一人でイライラして。誰に何か言われたわけじゃないのに、顔を見てるだけで辛くて……」
天野さんのことを名前で呼ぶ女性がいた。それだけのことになぜかこんなにも打ちのめされている。
あれだけモテている人なんだから、過去何人も彼女だっていただろうし、今現在だっていないとは限らない。
わかっていたはずだし、私には何の関係もないはず。
「自分が自分じゃないみたいで嫌だ。なんで……」
光ちゃんはただ黙って私の話を聞いてくれていた。
なんだかいつも以上に優しい微笑みを浮かべていて、大丈夫と言うようにいつも巧みにシェイカーを操る大きな手で頭を撫でてくれる。
その左手の指には銀色に鈍く光る指輪がはめられていて、なんだか甘えてしまったのが申し訳なくてありがとうと告げて少し首を引いた。