警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「大丈夫?」
キヨが心配げに声を掛けてくれる。
きのうのこともあって申し訳なくて、笑顔を向けて謝った。
「ん、ごめんねキヨ。ちょっと気分悪くなっちゃって」
「話、聞こうか?」
「え?」
肩を抱かれて耳元に小声で告げられる。
「天野さんと紅林さんのことが気になってるんでしょ」
「えっ?」
声も出せずにキヨを見つめれば、ニヤッと笑って頬をつつかれる。
イケメンは得だ。こんな憎たらしい顔をしても男前だなんて。
いまだ頬をつつくキヨの手をぺしっとはたいてデスクに戻る。
きのう定時で帰ったせいで、やらなくてはならない仕事が少し溜まっていた。
通路を挟んだ隣のデスクに戻ってきた天野さんから睨むような視線が飛んできていたのを完全に無視して、私は仕事に没頭することにした。
* * *
「もう少しインパクトが欲しい」
珍しく張り詰めた空気の会議室。
競合である『favoris de l’ange』にランチタイムはある程度お客さんを取られてしまうであろうと予測を立て、夕方以降の集客をもっと重点的に出来ないかと話を煮詰めていた。