警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
しかし『仕事帰りにほっと一息つけるお酒も飲めるカフェ』というコンセプトが固まっている以上、メニューを見直す以上に出来る画期的な案が出てくるわけもなく、ここ二日の会議は足踏み状態となっていた。
「このメニューで決定でいいんじゃないかな。楽観視してるわけじゃないけどデータを見る限り『favoris de l’ange』だっていつまでも勢いがあるとは思えないわ」
先日から会議に参加している紅林さんが天野さんに向けて言う。
会議に参加している大半の人も同じ意見なのか、皆小さく頷いている。
確かにSNS発信で人気になった店だが、評判が良いのは内装や写真映えする料理やスイーツの見た目で、飲食店の命である料理やドリンクの味について言及されているのはあまり聞こえてこない。
口元に手を当てたまま黙って何か考えていた天野さんがふとこちらを見た。
「蜂谷、お前は?」
「えっ?」
まさかこちらに話が振られるとは思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。
それもそのはず。この会議はプロジェクトチームの中でも中枢を担う厳選された人のみが参加している。私はアシスタントとして議事録を取っているだけに過ぎない。
参加していた面々の視線が集まり、私はどうしていいのかわかわずにオロオロしてしまう。
「あの……」
「お前なら仕事終わりにどんなカフェがあったら寄りたくなる?」
なおも私の意見を聞こうとする天野さんに、紅林さんがストップをかけた。
「彼女は企画部じゃないでしょ、無茶ぶりは可哀想よ」
「みんな煮詰まってるから息抜きですよ。それに彼女はターゲットに近い」
「今さらそんな。ペルソナだって作って活用したはずよね」
ペルソナとは端的に言えば架空の顧客を設定すること。
ひとりの架空の人物を想定し、そのプロフィールを行動や価値観、ライフスタイルなど、かなり詳細に設定する。