警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

例えば、その人は二十八歳の女性で独身。職業は大手化粧品会社に勤めていて今年から開発チームの主任を任された。

通勤時間は電車で十五分ほど。朝は六時に起き夜は十一時には就寝。

料理は苦手で外食派、休日はジムで身体を動かすなどアウトドア派。独身で一人暮らし、三年付き合っている恋人がいるが結婚願望はない。

あまりネットは使わずに、実店舗で買い物するタイプ。流行にはあまり敏感ではなく、SNSはメッセージアプリ以外利用していない。

こういった具合に、とことん細かく設定をして顧客のニーズを把握しマーケティングを行う。

そこまでして市場調査をしたのに、今さら二十代の女性というだけで私に聞いた天野さんに紅林さんが疑問を持つのも当然だと思えた。

「だから、息抜き。なんか思いつくことない?」

笑いながら言う天野さんの雰囲気に、本当に今は息抜きの時間なのだと解釈した何人かの社員が飲み物に手を伸ばしたり、トイレや煙草休憩に会議室を出ていった。

それならばと私も少し気を緩めて考える。

『仕事帰りにほっと一息つけるお酒も飲めるカフェ』というコンセプトから逸脱せずにインパクトを与えるには。

お酒……と考えて、光ちゃんのいるお店『ダイニングバー Karin』を思い出した。

シックでオシャレな内装のバーカウンターで、黒いギャルソンユニフォームに身を包んだバーテンダーに作ってもらったカクテルを飲む至福の時間。

あのバーは光ちゃんという知人が働いていると知っているからこそ抵抗なく入れるが、若い女性が初めて一人で入ろうと思うには少し敷居が高く感じるかもしれない。

チャージ料が掛かるかもとか、そもそもどんなお客さんがいるのか不安になってしまう。

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