警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「……簡易的なバーカウンター、とか?」
「ん?」
「本物のバーって大人な雰囲気で初めてのところは一人じゃ怖くて入れなかったりするから。ちょっとしたバーカウンターみたいなのがカフェにあったら……」
あまり大きな声で話したつもりはない。
それでも何人かの視線がぐっと集中するのがわかって身体が竦む。
「面白い案だけど、それは今からじゃとても……」
紅林さんが眉を下げながら困ったように微笑む。
とんでもなく場違いな発言をしてしまったようで、恥ずかしくなってぎゅっと目を閉じて俯いて謝る。
「す、すみません。あの」
「続けて」
「え?」
顔を上げて声の先に視線を送ると、目の奥がキラキラと期待に満ちた天野さんがこちらを見つめている。
視線を泳がすと、松本さんやキヨまでもハッとした表情で私を見ていた。
「蜂谷、いいから続けて。あとは?」
「あと? や、えっと……。居酒屋じゃなくてちょっとオシャレなところで飲みたい時に安心して入れる『行きつけ』っぽいバーって憧れるし、そこでバーテンさんと顔なじみになるのも楽しくて通いたくなったり……」
光ちゃんがいつか言っていた言葉を必死に思い出す。
バーテンダーには特に資格はいらないと言っていた。それでも彼はホテル関連の専門学校に通い、接客のいろはを学んだとも。
「バーテンダーって、国家資格はないですが民間の資格はいくつかあるらしいんです。でも絶対必要なわけじゃなくて」
しどろもどろに説明する私は、もう自分で何を言っているのかもわからなくなっていた。