警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
目が回る程忙しいとはこのことかと身を持って体感したこの一週間。
天野さんは有言実行で常務会に簡易的なバーカウンターの設置と、バーテンダーを常駐させる案を承諾させた。
それを受けてメニューも検討し直され、店内レイアウト図も変更、内装を担当する業者にも変更を伝え何度も打ち合わせし、販促のプロセスや媒体も練り直す。
「蜂谷さん、こっちの立地と商圏の資料お願いできますか?」
「了解です。明日の朝にはデスクに置いておきます」
「ハッチー! 施工業者に渡す書類ってさぁ」
「まとめて共有フォルダにあるよ」
私に出来ることは、プロジェクトメンバーの企画部のサポートだけ。今はうじうじと悩んでいる暇はない。
『企画部のなんでも屋さん』
それが今の私。
紅林さんもこの三週間プロジェクトをサポートするらしく、よく天野さんと打ち合わせしている姿を見かける。
そのたびにぎゅうっと胸が締め付けられ、キリキリと胃が痛む。紅林さんが私にも優しくて素敵な人だからこそ、辛くて何度も泣きたくなった。
それでも彼が私を『俺専属のなんでも屋』と呼び仕事を与えてくれることや、暗い顔をしているとキヨがポンと背中を叩いて気にかけてくれることで、何とか胸の痛みと仕事を切り離して頑張ってきた。
妥協は許されず、細かい事も何度も何度も打ち合わせを重ねて少しずつ作り上げていく私たちの新しいお店。
“私たちの新しいお店”
いつの間にか自然にそう思える程、自分でも驚くくらいこのプロジェクトチームに馴染んでいた。