警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

二年前にリフォームされて綺麗になった給湯室。自分のマグカップを置いておくのは禁止されている。使用して洗った後は各自デスクに持ち返るのがルールだ。

それなのに天野さんは堂々と黒いカップに木製の持ち手がオシャレなマグカップを給湯室に鎮座させている。

これも何回言っても聞かないので、諦めて棚のすみっこに置いてあるのを黙認している。庶務課の私としては由々しき問題だ。

電気ケトルに水を入れてスイッチを入れ、先程受け取ったキヨの深緑色のマグカップと天野さんのマグカップにヘーゼルナッツフレーバーのインスタントコーヒーを一匙入れる。

『calando』特製のコーヒーはオリジナルブレンドで手頃な値段で店頭でも買える人気商品。

この給湯室には定番の種類から期間限定のフレーバーまで揃っている。

お湯が沸くのを待っていると女性の騒がしい声が聞こえてきたので振り返る。美山さん達企画部の女性社員三人がマグカップを持って入ってきた。

「……お疲れさまです」

相変わらず仕事に来てるのか遊びに来ているのかわからない服装で、私がいると知るやいなや楽しそうな会話がピタリと途切れる。

いくら嫌われているからと挨拶もしないのも子供っぽい。

視線を合わせずに会釈だけすると、それに対して言葉を返すでもなく私が用意しているコーヒーに目を向けた。

「天野さんの次は相田くん? 随分節操ないのね」
「ほんとに目障りなんだけど」

マグカップを見て誰のものかわかったのか、同期で親しく呼んでいるのが気に入らないのか。

どちらにしても彼女たちの目ざとさにはうんざりする。

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