警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
目障りと言うなら見なければいいのにという反論は心の中だけにして、さっさとコーヒーを淹れて立ち去ろうと考えてケトルのお湯が湧いてくれるのを待つ。
それが彼女たちには無視をしているように感じたらしく癇に障ったらしい。
「黙ってないでなんとか言えば?」
「先輩をシカトとか何様?」
「コーヒー淹れるだけしか出来ないならさっさとそこの庶務に帰れば?」
怒ってみたり勝ち誇ったような笑みを浮かべたりしながら代わる代わる喋る忙しない三人を見て、煩わしさは感じても以前ほどイライラしないのはどうしてだろう。
「ちょっと可愛いからって調子に乗りすぎじゃない?」
「男漁りに他部署まで来るとか社会人としてどうなの」
「だいたい庶務課が企画部に来て何の役に立ってんの?」
こういう無駄に妬まれたり絡まれたりするのが嫌で、社内では男性社員との接触を極力避けてきていたけど、ここ一週間はそれどころではなかったので気にしていなかった。
天野さんに頼まれる仕事は膨大でよくコンタクトを取るけど、それ以外にも松本さんやキヨも私に仕事を振ってくれるので、他のプロジェクトメンバーからも名前を覚えてもらい雑用を頼んでもらえるようになった。
もともと企画部はアシスタントの事務以外は男性が大半の職場環境で、私が関わっているのは紅林さんを除けば男性しかいない。
しかし当然仕事なので何か意識していることもない。
それが彼女たちの目には男漁りに見えるんだから、もう何を言っても無意味にしか思えない。
カチとケトルから沸騰したと知らせが聞こえ、ふたつのマグカップにお湯を注いでいると、カツカツとヒールを鳴らし入ってきた紅林さん。
淡いブルーのシャツに細身の白いジャケットを羽織り、ボトムは膝が隠れる丈のペンシルスカートを履いていて、いつ見ても洗練された大人の女性の風格が漂っている。