警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「こんな所で油売ってるあなた達より、彼女のほうがよほど役に立ってくれてるわよ。まずは自分の仕事をちゃんとしたらどう?」
綺麗な眉を顰めて、私を庇うように三人組に言葉をかける紅林さん。
……あぁそうだ。どうしてあんなにもモヤモヤした気持ちになったのか。どうして今、彼女たちにイライラしなくなったのか。
「アナタ楠田さん? 村田くんが資料が揃ってないって探してたけど」
紅林さんは天野さんの二つ先輩で、彼の教育係を務めたほど優秀な女性。私や彼女たち三人が逆立ちしたって敵わない凄い人。
それは彼女が関西から来て一週間仕事ぶりを見ていれば嫌でもわかった。
仕事もちゃんとしないような人達の罵詈雑言がカスリ傷にもならないほど私の心を打ちのめしたのは、完璧すぎる彼女の存在そのもの。
この人が、ずっと天野さんのそばにいたんだ。
名前を呼べるほど近くに……。
「翔や相田みたいなエリートを捕まえたいのなら、まずその頭空っぽそうな服装考え直して仕事をすることね。ここは婚活会場じゃなく職場よ」
紅林さんの容赦ない言葉に、美山さん以外の二人は顔を真っ赤にして俯いている。
完璧な彼女に言われたらもう何も言い返すことなんて出来ないのだろう。
楠田と呼ばれた女性が足早に給湯室を出て行き、それに続くようにもう一人の女性もこちらを見ないようにして去っていった。
コーヒーのいい香りが充満する給湯室で、ふたつのマグカップの中身が徐々に冷めていく。もくもくと立ち上っていたはずの湯気も今や見えない。