警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

このままぬるくなったコーヒーを二人に渡したらどんなリアクションをするのかな、なんて呑気なことを考えてしまっていた私の耳に飛び込んできたのは、美山さんのとんでもない反撃の言葉。

「関西支社の同期に聞きましたよ。不倫してコンプラ課から飛ばされて来たんですよね?」

静まり返る給湯室。

美山さんが発した言葉の意味を私が理解する前にさらに言葉が続く。

「人の事どうこう言う前に自分はどうなんですか? 職場で婚活するくらい、不倫に比べたら可愛いものじゃないですかぁ?」

挑発するような話し方にうっかり乗ってキレたのは私の方だった。

「いい加減にして下さい!」
「蜂谷さん」

派手ではない控えめなピンクベージュのネイルが施された綺麗な手が私を止める。

同じ土俵に乗るなと窘められて、自分だって散々言いたいこと言ってたじゃないですかと紅林さんを見つめてみるけど、彼女は意に介さないまま首を振って「楠田さんを探してただけだから」と給湯室を出ていった。

もう一度ケトルにスイッチを入れてマグカップの中身を捨てる。

シンクが茶色く汚れたのでサッと水で流し、カップにまたコーヒーを一匙ずつ入れながらチラリと美山さんを見やると、まだ言い足りないのか好戦的にこちらを睨んでいる。

「この前見たの。お昼休憩に相田くんにベッタリくっついて歩いてるアナタ。彼が迷惑そうにしてたの気付いてないの?」

せっかく紅林さんが止めてくれたけど、私はもう彼女みたいな心無い人達に振り回されて自分の行動を決めるのはやめようと思った。

まずは自分に自信をつけなくては。

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