警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
これで少しは大人しくなるのか、紅林さんや天野さんに庇われた格好になった私に更に妬みをぶつけてくるのか。
いずれにしても負けないし、もうどうでもいいと吹っ切れたので気にならなかった。
また冷めないうちに上のフロアに戻ってキヨに渡してあげなくては。そう思いつつも給湯室の入り口を天野さんに塞がれていて出ることが出来ない。
なぜ通せんぼのようにされているのかわからずに怪訝な表情をした私を黙って見下ろしている。
薄いグレーのシャツを肘の下まで捲くっているせいで見える腕の筋や、鮮やかなネイビーのネクタイを緩めた首元が壮絶なまでに格好良い。
今更ながら彼がモテる理由の一端を再確認させられて小さくため息が漏れた。
「なぁ、こういうの今までもあった?」
背中を壁に預けたまま視線だけ私の方を向いている。
ファッション誌から抜け出てきたようなポージングだと見惚れたくなるのをグッと堪えて質問に答えた。
「まぁ、そうですね」
「何で言わなかった?」
「えっと……慣れてるから?」
自慢にもならないが、中学に上がる前からこうして女子たちから無思慮な言葉を投げつけられてきた私は、かなりの耐性がついていると思う。
ちょっとしたことに反論したり、第三者に助けを求めたり、誰かに庇ってもらったりすることで事態が大きくなることも身を持って経験していた。
だからこそこうして強く可愛くない私が出来上がったんですよ。声に出しては言わないけど。
「もう気にしないことにしました」
「ん?」
「無愛想なのも卒業です」
「は?」
なんだか少しだけ愉快な気分になって小さく笑みが溢れる。