警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
そんなフロアの隣りにある給湯室で繰り広げられる会話は、誰に聞こえてしまうかもわからない。
「ど、どういう意味……」
「答えて。わかってんだろ?」
意地の悪いニヤリとした笑い方。
他の女性社員には優しく笑いかけるのにどうして私にだけ。
ずっとそう思ってきたけど、あれは優しくしようと笑ってるのではなく、ただ笑顔を貼り付けているのだと気がついたのはいつだったか。
軋轢をうまない人のいい笑顔で周囲と一線を引いていると気がついて、その線の内側に入れるのはどんな人なんだろうと考えた。
名前で呼ぶことを許された紅林さんを思い浮かべると、どうしても胸がチクリと痛む。
先程毅然とした態度で私を庇ってくれた彼女は、目の前の彼の一体なんなのか。
そもそも私だって、彼にとってどんな存在なのか。
屋上で奪われたファーストキスが脳裏を過る。
“褒める”という言葉に隠された甘い誘惑に惑わされてしまいそうで、私はキッと天野さんを睨む。
「言って下さい」
「何を」
「言うべきこと」
可愛くないと思われても、面倒くさいと思われても、言葉を聞けない限りは私だって動けない。
慣れてるあなたと違って、私は完全な初心者なんですから。そんなこと絶対に口には出さないけど。