警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

「じゃあ翔って呼べよ」
「それじゃないです」
「うるせぇ、呼べって」

これじゃあこの前の飲み会帰りの二の舞だ。

わかってるけど私から引くことなんて出来ない。

線の中に入ってこいと手招きをされても、言葉で“おいで”と言ってもらわないと動けない。

「……なぁ、蜂谷」
「はい」
「ランチ。今度は二人で行こう」

たったそれだけの言葉。不貞腐れたような声で誘ってきたのが可笑しくて、本当はもっと求めていた言葉があるはずなのについ頷いてしまった。

ゆっくりと下りてきた影。

ここは会社で、新しくなって利用者も増えた給湯室で、お昼休憩前の就業時間中だと警鐘を鳴らす私がいる一方で。今から自分の身に起こることをずっと期待していたんだからと白旗を上げる私もいる。

「天野さん」

ゆっくりと彼の名前を呼ぶ。

「……ねぇ」
「なんだよ」
「褒めて下さい。翔さん」

淹れ直したコーヒーは、やっぱり冷めてしまっていた。



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