警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました

信じがたいが肯定の言葉が返ってきて、どんなリアクションを取るべきなのかわからずに固まる。

「小田部長と。それがどこからか会社にバレたみたいで……」

先日耳にした彼女の噂。

こちらに三週間だけ出張だなんて訳アリだとは思っていたけど、まさか不倫の事実関係を確認する間、相手から引き離されているだなんて思いもしなかった。

手に持った冷たいはずのビールジョッキが温度を失くしていく。

二つ上の彼女は当時新入社員の俺から見たら超人のような仕事ぶりで、大学を卒業したばかりの俺は女性に負けるなんて悔しいと馬鹿げた考えでがむしゃらに仕事をこなした。

見当違いな発言をして上司に睨まれるなんてことも少なくなかった生意気な新人時代。

そのたびにケラケラと笑いながらフォローをしてくれたのが彼女、紅林美樹だった。

俺の教育係をしてくれた彼女はとにかく仕事が好きで一直線。

決して独りよがりでなく、まだ三年目だった彼女は俺の面倒を見ながらも先輩からの教えを素直に受け入れ、メキメキと力を付けていた。

そんな彼女の姿勢に男とか女とかくだらないことに囚われていた自分が恥ずかしくなり、なんとか近付きたくて仕事ぶりを見て学んだ。

共に企画部に異動してからは先輩後輩というよりは仕事仲間とか同志に近い存在で、会社帰りに飲みに行ったり、休日に映画を観に行くくらいには仲良くなった。

お互い好感は持っていたと思う。いつの間にか仕事以外では名前で呼び合うようになった。

ようやく企画部での仕事のなんたるかがわかってきた頃、美樹が関西支社立ち上げのメンバーにと打診されたと聞かされた。
俺は頑張れと彼女を励まし関西へ送り出した。

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