警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
それを見て、もう俺へ気持ちは全く残っておらず、四十二歳という若さで関西支社の企画部長を務めている小田さんの腕には対の時計がはまっているのだろうと勝手に思った。
何をどう言ったらいいのかわからず、ただ黙って美樹の話を聞くことしか出来ない。
「でも今は本当にあの人が好きなの」
「美樹」
「一年くらい前から離婚について話し合ってるとは聞いてるの。どうなるかは……わからないけど」
そのまま沈黙が続き、手に持っていたビールを半分以上一気に流し込む。
目の前の彼女は涙こそ流していないが、ボロボロに傷付いているように見えた。
「ごめんね、久しぶりの飲みでこんな話」
「いや」
「でもちょっとスッキリした。明日も仕事だしちゃっちゃと食べて帰ろう。こんなの社の女の子に見られたらまた噂が広がるわ」
「あぁ。なんだろうな、うちの女子社員のえげつない噂話」
それでも前を向いて明るく振る舞う美樹の言葉で、先日出くわした不快な現場を思い出した。
給湯室で聞いた蜂谷を貶める暴言。
彼女はそれを平然とした態度で受け流し、慣れていると言っていた。
蜂谷を認識した二年前からずっと感じていた、男に対する警戒心。
頑なに一線を引いて笑顔を見せないでいたのは、やはり周りの女達からのやっかみのせいなのだと先日の一件で確信した。
あの容姿だ。きっと昔から少し男と話すだけでも色々心無い言葉を言われてきたのだろう。
職場で男絡みで身に覚えのない中傷を受けないため、彼女は女性から人気のあるいわゆる『イケメン』を遠ざけてきたのだ。