警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
彼もまた蜂谷を『あすかちゃん』と呼び、随分親しそうに目を細めて微笑んでいる。
目の前で繰り広げられる光景にガキっぽい嫉妬心が首をもたげる。
嬉しそうに口元に添えられたあの手を引いて、自分の腕の中に閉じ込めてしまいたい。
「蜂谷さん、阿久津さんと知り合い?」
「幼なじみなんです」
人事を担当する山本に聞かれると、嬉しそうに彼を紹介している。
「最高のバーテンダーですよ! 光ちゃんに研修してもらえるなら最高の接客になること間違いないです」
「はは、あすかちゃん大袈裟。でも力になれるよう頑張らせてもらうよ」
「ほんと? 光ちゃん引き受けてくれるの?」
蜂谷が珍しく興奮した声で話しているせいか山本は驚きを隠そうともせず、廊下を通り過ぎる社員も何事かとこちらをチラチラと眺めている。
彼女を良く思っていない女子社員も、人目を引く阿久津さんの姿に興味を抑えきれない様子で小声でヒソヒソと話しているのが視界の端に入った。
「珍しい。会社じゃヘアアレンジしてないって言ってたのに」
阿久津さんの手が蜂谷の髪に触れる。
ここ二日ほど彼女の髪は簡単にひとつ結びされただけのものから、後ろで複雑に編み込まれていたり、緩く巻いて背中に垂らされていたりと、確かに以前とは違い洒落っ気のあるものに変化していた。
陽に透ける蜂谷の髪に伸ばしたその左手の薬指に、銀色の飾り気のない指輪がはまっているのが見えた。
とはいえそれが嫉妬しない安心材料になるかといえばそうではない。