警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「良かったら天野さんもいかがですか?」
「え?」
思わぬ誘いに俺も蜂谷も驚いて彼を見る。
彼女に注がれていた優しげな眼差しとは違い、探るような鋭い光が潜んでいるのに気が付いた。
「お近付きの印にサービスしますよ。あすかちゃん、案内してあげてね」
「でも……」
チラリと俺を窺うように上目遣いで見つめる瞳は水分量が多く揺らめいている。
この瞳に吸い寄せられて屋上で唇を奪ってしまったのだと頭の片隅で思った。
俺を見る蜂谷の視線に、自分への想いが含まれていると感じるのは自惚れだろうか。
そうでなければ彼女の性格上、二度もキスを許さないのではという妙な確信を持ってしまう。
しかしそんな自惚れは、相田と親しく交わすアイコンタクトやこの阿久津という幼なじみの存在で脆くも崩れそうになる。
給湯室で初めて名前を呼ばれたのは三日前。
褒めてほしいかと暗にキスを仄めかし少しずつ距離を縮めた。
真っ赤になりながらも俺からのキスを受け止めた彼女が可愛くて愛しくて、給湯室じゃなければそのまま押し倒していた。
何度か逃げられながらも、ようやく手を伸ばせば触れられる距離まできた。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて二人で伺います」
俺の返事に驚き目を見開く蜂谷をよそに「お待ちしております」と微笑むと会議室へ消えていった阿久津さん。
何を考えているのかはわからないが、向けられたあの眼差しで俺の気持ちなんて気付かれているのだろうと思った。
「あ、天野さん?」
「仕事十九時までに終わらせて。逃げるなよ?」