警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
蜂谷に案内されて入った『ダイニングバー Karin』は、カウンターに八席ほどと四人掛けのテーブル席が三つあるこぢんまりとしたシックなバー。
アンティークのような木製の扉を開けると、昼間はダンガリーシャツにカーディガンを羽織っていた私服の彼とは打って変わり、白いシャツに黒のベストのユニホームと夜の雰囲気を身に纏った阿久津さんに出迎えられた。
一度会ったことのある増田さんにも挨拶をして、カウンターの左端に並んで座る。
ここまでの道中、酒だけでなく料理もおいしいと蜂谷が言っていた通り、頼んだパスタや肉料理、さらにそれに合うようにと抽象的なオーダーだった酒も全て旨かった。
差し障りのない仕事の話から、彼がバーテンダーを目指したきっかけなんかを聞いているうちに、隣に座る蜂谷が船を漕ぎ出した。
仕事帰りに何度か相田達と飲んだことがあるが、こんな風に眠ってしまったことはない。
「おい、蜂谷?」
「あすかちゃん、カクテル三杯が許容量なんです。それを超えるとこんな感じで寝ちゃう」
クスッと笑ってカウンターに突っ伏して寝だした蜂谷の前にあるカクテルグラスを引いた阿久津さん。彼の前でこんな風に無防備に寝入るのは今日が初めてではないということか。
「今日も三杯だけど、いつもより少し濃い目に作りましたから」
その言葉で、蜂谷抜きで話がしたかったのだろうと悟る。
金曜の二十一時というだけあってテーブルは満席。
カウンターも俺達が座っている逆サイドに五十代くらいの男性客と俺と同世代くらいの女性客が一席ずつ間隔を開けて座っている。