警戒心MAXだったのに、御曹司の溺甘愛に陥落しました
「そんなに睨まなくても、あすかちゃんがここで寝ちゃったのはお母さんと飲みに来た時くらいだし、そもそも俺は結婚してますから」
「……こいつとは幼なじみだそうで」
昨日、美樹から部長との関係を聞かされたばかりで、正直結婚という契約を安心材料にするにはタイミングが悪すぎる。
しかしさすがにそれは失礼にあたるとグッと言葉を飲み込んだ。
「はい。幼稚園の頃から知ってますよ。実家が同じマンションだったこともあって母親同士の仲が良くて、よく一緒に遊んでいました」
目の前の男と、隣で気持ちよさそうに眠っている蜂谷。整った顔立ちの二人の幼い頃はさぞ可愛かっただろうと思いを馳せる。
「屈託なく笑う本当に可愛い女の子で、俺が中学に上がる頃までは仲が良かったんです」
「……中学に上がる頃まで?」
大人になった今もこうして繋がっていることを思えば、その表現には疑問があった。
「休日には家族で一緒に昼ごはん食べて、誕生日やクリスマスの行事なんかもずっと一緒で。俺にとっては初恋の女の子です」
「……」
「可愛くて守ってあげたい存在だった。でも、ガキだった俺は守れなかった」
なんとなく、阿久津さんが何を言いたくて今日俺を呼んだのかが察せられた。
長身にサラサラの黒髪、整った顔立ち。きっと中学に上がる頃には女子からの人気は凄まじかったんだろう。
「中学になると幼なじみっていう距離感は厄介で、しょっちゅうからかいの対象になりました。俺は男だしまだ平気だったけど、小学生のあすかちゃんが中学生の女子にどんな言葉を浴びせられたのか……」
先日も会社で蜂谷への嫉妬からくる中傷の数々を聞いたばかり。