好きな人には好きになってもらいたいじゃん。



黒のTシャツに黒の少し緩めのパンツの真っ黒な廉が離れていく。

駅前には花火大会に来たであろう人であふれかえっている。



廉が行っちゃう……っ。


ここではぐれるのは心細くて、追いかけようとするけど慣れない浴衣と下駄で上手く走れない。




「あ、すみませっ……」


そして人の多さで、横を通る人に肩がぶつかる。

うぅ……廉、速いよ……。


もうゆっくり行こうか。

待ち合わせ場所まであと少しだし。



そう思い、視線を落としたとき。




「胡桃、っばか!離れんなっつったろ」



前から焦ったような表情の廉が人波をかきわけて、わたしの前まで戻ってきた。

そのまま、わたしの手首を掴み引き寄せる。




「廉……」

「俺から離れんなよ」

「ご、めん……」



強い口調で、思わず素直に謝った。

廉はわたしの肩を抱いて、再び歩き始める。


今度はさっきよりもゆっくりと。




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