好きな人には好きになってもらいたいじゃん。
「ありがとう、くるちゃん」
「胡桃ちゃん、ありがとうね」
おんなじ笑顔をもう見ることなんてできなくて、顔ごと逸らした。
「……邪魔者はどっかいくね」
これ以上この場にいることなんてできない。
いまは、ふたりを見てられない。
手を振ってから、ふたりに背を向けて歩き出す。
そのときちょうど、花火が上がり始めた。
夜空を明るく彩る花火だけど、わたしの視界は真っ暗だった。
「胡桃!」
少し歩いたとき、手首を掴まれ無理やり足が止められる。
掴まれた手を引っ張っても、離してくれない。
「……胡桃」
花火が上がる音が響く中、わたしの名前を呼ぶ声は芽のように小さく弱々しい。
振り返ることができずにただ俯く。
「っ、廉……」
「胡桃、こっち」
震える声で名前を呼ぶと、廉はわたしを引っ張って狭い路地に入る。