好きな人には好きになってもらいたいじゃん。
「廉……ありがとう」
胡桃の甘く耳に心地いい声。
樹やほかのやつの前だと少し甲高くなるけど、それは胡桃じゃない。
胡桃は俺と話してるときの声がいちばん自然で、透き通っていてきれいだ。
どんな胡桃も、胡桃だから、胡桃ならそれでいい。
でも、ほかの男のために自分をつくる胡桃は嫌い。
ほかの男に好かれる胡桃も嫌い。
俺といるときの胡桃が、いちばん自然体で、いちばんいい。
胡桃は俺といるほうがぜったいにいいんだよ。
「……じゃあな」
「うん。いっぱいごめんね。ありがとう、廉」
「ん、」
「おやすみ」
家の前まで来てやっと胡桃を下ろす。
背中の温もりがなくなることに、心細く感じる俺はけっこうやばい自覚はある。
もう泣いていない胡桃だけど、家の明かりで照らされた顔は、しっかりと泣いた痕跡が残ってる。