好きな人には好きになってもらいたいじゃん。
樹は胡桃のことが好きだった。
それはいつだ?
……知らなかった。
昔の俺は、自分の気持ちしか見えていなかったから。
胡桃の気持ちも見えていなかったから、樹の気持ちなんて見えるわけがない。
「……俺のためとか言うんじゃねぇよ」
「そんなこと言ってないよ」
「言ってるようなもんだろ!」
「廉、静かに」
樹の胸倉をつかむ。
それでも樹は冷静で、声を荒げた俺を注意する。
なんで、落ち着いてられるんだよ。
意味わかんねぇ。
兄弟だけど、樹のことはなにもわかんねぇ。
1年しか差はないのに、俺とは考え方がまったく違う。
「……俺の気持ち知ってるから、胡桃が好きでもなにも言わなかったんか?」
「そうじゃないよ」
「そうだろ。両想いってわかってるのに言わないのはおかしいだろ」
「おかしくないよ」