好きな人には好きになってもらいたいじゃん。



樹は胡桃のことが好きだった。


それはいつだ?


……知らなかった。

昔の俺は、自分の気持ちしか見えていなかったから。



胡桃の気持ちも見えていなかったから、樹の気持ちなんて見えるわけがない。




「……俺のためとか言うんじゃねぇよ」

「そんなこと言ってないよ」

「言ってるようなもんだろ!」

「廉、静かに」



樹の胸倉をつかむ。

それでも樹は冷静で、声を荒げた俺を注意する。



なんで、落ち着いてられるんだよ。

意味わかんねぇ。


兄弟だけど、樹のことはなにもわかんねぇ。


1年しか差はないのに、俺とは考え方がまったく違う。




「……俺の気持ち知ってるから、胡桃が好きでもなにも言わなかったんか?」

「そうじゃないよ」

「そうだろ。両想いってわかってるのに言わないのはおかしいだろ」

「おかしくないよ」





< 143 / 347 >

この作品をシェア

pagetop