好きな人には好きになってもらいたいじゃん。
上手く息ができない。
うそだ。
うそだ、うそだ、うそだ。
うそだ……と思いたいのに、目の前で繰り広げられる光景が現実だと言っている。
胸が痛い。
痛すぎて、胸の当たりに手を置き、ちょうど触れたリボンとカッターシャツをぎゅっと握る。
………痛いよ。
くるしいよ。
初めての痛みにどうすればいいのかわからない。
いっくん………。
姫野先輩と並んで歩くいっくんは、わたしがいることに気づかず前を通り過ぎる。
なんでだろう。
鼻の奥がツーンとする。
涙があふれそうになる。
声が出ない。
いっくんの横顔が、初めてきらいだって思った。
いっくん。いっくん。
「っ……」
実際に声に乗せて、呼ぶことはできなかった。
いっくんと姫野先輩の後ろ姿を見つめる。
だめだ。視界が……。
「胡桃?」
わたしを呼ぶ声が聞こえて、ゆっくりと顔をそちらへ向けた。
半分歪んだ視界で見えたのは部室から出てきたばかりの廉。
いっくんと違ってネクタイはつけず、ブレザーの前もカッターシャツのボタンも開けてだらしない格好をしている。