好きな人には好きになってもらいたいじゃん。


「緊張がついてる」

「頭打った?」

「うっせぇ。まぁ、がんばれよ。おまじない」


後頭部に手を回し引き寄せられる。

そのまま耳元で囁かれて、廉の口が耳に触れた……気がした。


一瞬すぎてわからなかったけど。

気のせいかもしれないけど。


離れていく廉をじっと見つめると、ほんの少しだけ口角を上げてわたしの頭をぽんとした。


なんか、廉が廉じゃなかった。


『がんばれよ』『おまじない』って……。

さっきのことを思い出して、ふっと笑みがこぼれた。


……優しいじゃん。ちょっと調子狂うけど。



「くるたん、つぎ出番だよ」

「うん!」


なんだかできそうな気がする。

前のグループの曲が終わるとすぐに入れ替わり、わたしたちのグループが始まる。


いっぱい練習してきたダンスをがんばって踊った。

いっくんを探す余裕はなかったけど、大きなミスはなく、最後まで楽しく踊ることができた。


緊張もしなかったし、廉のおまじないのおかげかも。なんてね。


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