好きな人には好きになってもらいたいじゃん。
名前を呼ばれたと思ったら、わたしの肩に手が回され横から抱き締められる。
それと同時に、いっくんの肩を強く押し引き離された。
「っ、胡桃に近寄んな」
呼吸が乱れている。
走ってきたのかな。
探してくれてたのかな。
そんなこと、どうでもいいけど。
「折原くん……」
「姫野さん、ごめんね。呼びに来てくれたの?」
「あ、うん。呼び込みに行ってから戻ってこないから……」
廉と反対方向から現れた姫野先輩を見れば、気まずそうに視線を逸らした。
いまにも泣き出しそうな表情で、胸が痛いほどくるしくなった。
「っ、」
廉の腕からすり抜けて、走ってこの場から逃げる。
視界が歪む。
だけど、すぐに手首を掴まれて前に進めなくなった。
今日は引っ張られてばかり。
「……こっち来い」
低い声で言われ、素直に引っ張られる。
顔を上げることができない。
ドアを乱暴に開けて、乱暴に閉める廉。
文化祭だから教室は解放されているけど、ここにはだれもいない。
気まずい空気だけが流れる。