好きな人には好きになってもらいたいじゃん。
ゆっくりと振り返れば、いっくんが駆け寄ってきているところだった。
「いっくん、がんばってるね。リレーもすごい速かった」
「ありがとう。くるちゃんは足、大丈夫?」
「うん。軽い捻挫だからね」
「でも捻挫は癖になるから気をつけて。肩貸すよ」
「大丈夫だよ」
いっくんがわたしに手を伸ばす。
でも、その手を思わず振り払ってしまった。
「あ、ごめん……」
いっくんの手を振り払ったのは初めて。
完全に無意識。
前のわたしなら喜んでいっくんの肩を借りたし、いっくんからわたしに触れようとしてくれることはうれしかった。
そのはずが、いまはなんだか嫌だった。
さっきまで姫野先輩に回されていた手。
わたしではない女の子に触れていた手。
それもある。
あるんだけど……。
「ううん、僕こそごめん」
謝ってふっと笑みを浮かべたいっくんの表情は、姫野先輩といたときとは違う切なすぎる笑み。
その表情に胸がぎゅっと締め付けられるほど、くるしくなった。