好きな人には好きになってもらいたいじゃん。


予選では軽く流すように走っていた廉が、いまは真剣な顔で走っている。

いっくんに負けないように、一生懸命に。

いっくんも本気で走っている。


これは真剣勝負だ。



首元のタオルをぎゅっと握りしめる。


目を逸らすことは許さないと言わんばかりの気迫ある走りに、ずっと視界の中心に入れてしまう。


すごく速いのに、細かいところまでよく見える。



歯を食いしばる表情も。

大きく振っている腕の筋も。

かろやかに前へ出される細く綺麗な脚も。

風を受けて後ろに流れる髪の毛の先も。

髪の隙間から覗く、揺れるリングピアスも。

キラリと落ちる汗の雫も。


目を奪われてしまい、すべてから目を離せないんだ。



ねぇ、がんばって。

負けないで。


負けたらだめだよ。

負けたらいやだよ。




「廉!勝って!」



前を通るときに、大きい声で叫んでいた。



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