男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「獣人には、人族にはない特別な力があるのですよ」

「魔術、だっけ?」

「ええ、そうです。人族が魔術を使う時は詠唱や魔法陣が必要不可欠ですが……僕たちは、いつでも好きな時に使えます」

「すごいの? それは」

「さぁ、どうでしょう。少なくとも今は、便利だと思いますね」

 チラリ、とノージーの視線が先ほどの女性二人組の方を向く。その瞬間、女性たちが叫び声を上げ、ピケは飛び上がらんばかりに驚いた。

「なに⁈」

 確認しようと、ピケは女性たちの視線から隠すように立っていたノージーを押し除けた。
 しかし、彼は動かない。それどころか軽々と抱き上げられて、回れ右させられる。

「ふふ。ピケは見なくても良いことですよ。さぁ、行きましょうか。ああ、彼女たちのことはお気になさらず。口は災いのもと、という言葉を教えてあげただけですから」

「どういうことなの、それは!」

「さぁて……ふふふ……」

 不穏な空気を察知して、ピケは押し黙る。
 借りてきた猫のようにおとなしくなったピケの手を引き、ノージーは機嫌が良さそうに目を細めながら、その場を後にしたのだった。
< 107 / 264 >

この作品をシェア

pagetop