男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「主人には大した財産もなくって。困りますわ」

 ホホホと笑っている声は、どことなく甘ったるい。おそらく、継母は次の夫に医師を狙っているのだ。いい歳して。
 継母は、貧しい粉挽き職人の妻にしては美人だが、医師の妻になるには少々年齢が──それだけでなくいろいろと──合わない。「誰か注意してあげてよ」とピケは心の中で毒づいたが、その場に言えるような人物はいなかった。

「俺は粉挽き小屋しかもらえなかった」

「俺はロバだけだ」

 二人の兄たちは、不満そうだ。
 そんな兄たちに、医師が「いやいや」と言葉を返す。

「この時代、それだけ遺せただけでも上々でしょう。お父上に感謝しなければ」

 粉挽き職人である父には、大した財産などない。
 家と粉挽き小屋、ロバと猫。それだけだ。
 家と粉挽き小屋は、一番目の兄のものに、粉を運んでいたロバは二番目の兄のものとなり、実質父の仕事は兄二人が引き継ぐことになる。
 末っ子のピケは、猫しかもらえない。もっとも、この猫だってピケが拾ってきた子だから、もらうというのもおかしな話なのだけれど。
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