男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 傷つけるつもりはない。だけど、気持ちを忘れてほしくもない。
 ピケのことを気遣った上で、それでもこれだけは、と言ったのだろう。
 それくらい、ノージーの気持ちは彼にとって大切なものなのだと、ピケは理解する。

「嫌ですね。黙らないでください」

 ちょっと怒ったような、責めるような声。
 だけどピケの耳には、なにかをごまかしているようにしか聞こえなかった。

「だって」

 しょぼくれた顔をしているノージーに、ピケがプッとふき出す。
 だって、ピケはわかっちゃったのだ。
 ノージーがピケに「好きだ」とか「恋している」と言わなかった理由。
 それは、ピケを困らせないためでもあるのだろうが、なにより彼自身、言うことが恥ずかしいと思っているに違いない。

(きっと、さっきかけてくれた甘い言葉も、恥ずかしかったに違いないわ)

 一生懸命、恥ずかしいのを我慢して言ってくれたのだろう。
 ひどい言葉でピケを(わら)っていた彼女たちから守るために。
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