男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「ねぇ、ピケ。それはやっぱり、夜一人で眠るのが怖いせいではないかしら」

 イネスの腹づもりなど知る由もないピケは、彼女の問いかけに「うーん」とうなる。
 むくりと起きたピケの小さな鼻に、シワが寄っていた。
 顔のパーツが中央に寄ると、もともと幼い顔立ちなのにますます幼く見える。

 純粋な子どもを騙しているようで気が咎めるが、背に腹はかえられない。
 イネスは罪悪感を押し殺して、王族らしい微笑みを浮かべた。

「だってここはロスティだもの。敗戦国の人間である私たちが怖いと思ってしまったって、仕方のないことだわ」

 もっともらしいことを言っているが、イネスの目的はピケとノージーがイチャイチャすることである。

「そうでしょうか?」

「ええ、そうよ。そうに違いないわ。だからピケは、慣れ親しんだノージーのそばで安心したいのよ」

 心理学者かのように熱弁を奮っているが、イネスの目的はキリルとのハグなのである。

「そう……なのかなぁ?」

「そうに決まっていますわ! わたくしにはわかるのです! 今のあなたに必要なのは、ノージーとのスキンシップ! これに尽きますわ!」
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