男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「そうですわよ。あなたたち、お父様に感謝なさい。ピケなんて、猫しかもらえないのよ? それを考えれば、あなたたちは恵まれています」

 医師の言うことにもっともらしく答えながら、いやらしい微笑みを浮かべている継母の姿がありありと浮かぶ。ピケは「おえー」と言いたくなるのを我慢して、舌を出すだけに留めた。

「そうそう、うわさによれば、ロスティはこれからますます軍事に力を入れていくつもりなのだそうですよ。子どもたちはみな訓練学校へ入れられて、みっちり扱かれるらしい、と」

 医師の言葉に、「げー」とか「えー」とか兄たちがうめいている。きっと、盛大に顔をしかめているのだろう。
 彼らは運動することが大嫌いで、家の手伝いすらまともにしない。できることと言えば、ピケをこき使うことと、寝ることと食べること。それだけだ。
 おかげさまで、食べ頃の七面鳥みたいな丸々とした体形をしている。
 だが、彼らの大好物である魔兎のソテーは、今後しばらくお預けされることが決まっている。用意していたピケがいなくなるからだ。

(ナイフとフォークを持ってドンドン! ってテーブルをたたく兄さんたちを見なくて済むようになるのは、良かったわ)
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