男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている

「あらまぁ……それで、それからどうしたのです?」

 鏡越しに目をきらめかせ、ドレッサーの椅子から身を乗り出さんばかりにこちらを見てくるイネスに、ノージーはこれみよがしに深いため息を吐いた。
 イネスの自室の、鏡台の前。ノージーは彼女の髪を結いながら、尋問されている。

 彼にしてはわかりやすく落ち込んでいる様子に、イネスはクツクツと笑う。普段すました顔をしている人のわかりやすい態度というのは、実に滑稽で面白い。
 ニヤニヤともの言いたげに笑う彼女に、ノージーは半眼でじっとりと()め付けた。

「どうもこうもありませんよ。手を出せるような雰囲気ではありませんでしたから」

 スパッとした物言いは、これ以上話したくないと言っているようだ。
 だが、イネスはお構いなし。両手で唇を隠しながら、それでもわかるくらいニマニマと意地悪く笑う。

「あら、どうして? 深夜に若い男女が二人きり。そんな雰囲気になって然るべきでしょう?」

 しれっと言っているが、イネスの胸は高鳴っている。
 獣人であるノージーの耳には、うるさいほどだ。
 きっと、よからぬ妄想でもしているのだろう。
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