男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている

 ふわん、ふわん、と何かが肌に触れては離れてを繰り返している。
 くすぐったくて、ピケは目を閉じたまま、ほにゃりとしまりなく笑った。

「んふふ……くすぐったいよ、ノージー」

 昨日は、ノージーに導かれるまま魔の森の近くまでやって来た。
 打ち捨てられた小屋に身を寄せた一人と一匹は、そのまま眠ってしまったらしい。

 ノージーの長い尻尾がピケの首筋を撫でている。
 こしょこしょとくすぐるようなしぐさはいつものことで、ピケはそれを優しくどかして起き上がろうとした。

「……ん?」

 目を閉じたままのピケの眉間に、シワが寄る。
 感触を確かめるように、彼女は手の内の尻尾を何度か握った。

 おかしい。ノージーの尻尾はこんなに太かっただろうか。
 彼は猫にしては大型だが、それにしたってこんなに太いはずがない。
 ツツツツ、と尻尾の長さを測るようにピケの手が尻尾を伝う。

 ピケの腕ほどもある尻尾なんて、そんなわけあるはずがない。もしかしてまだ寝ぼけているのだろうか──と目を擦りながら身を起こした彼女は、次の瞬間心臓が止まりそうになった。
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