男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 そんな言い訳が通用するとでも?
 まるで汚物を見るような目で睨むノージーの前で、アドリアンが気恥ずかしそうに頭を掻く。
「心などとうに捨てた!」と高笑いしそうな見た目の人物が、無防備に照れている姿についうっかり気を削がれそうになって、ノージーはますます不信感を募らせた。

「だからずっと、どう訓練に誘ったものかと悩んでいたのだが……先日、暗殺者に一撃見舞ったやつがいると報告が上がってきて、きっとこいつ……ピケ・ネッケローブに違いないと思ったら居ても立っても居られなくなってな」

「なんです、それは」

「そのままの意味だ。いかがわしい意味などかけらもない。俺は彼女を鍛えたい。それだけだ」

 アドリアンの態度にも声にも、うそは見受けられなかった。
 それでも、ピケに触れたことは許し難い蛮行である。
 一体どんな理由があったら、年頃の女性のスカートの中に手を突っ込むというのだろう。
 ここは是非とも納得がいく答えをもらいたいものだ、とノージーは息巻いた。

「では、足を撫でていたのは……?」

「どこをどれくらい鍛えれば向上するのか確かめていただけだ。訓練することでどのように彼女が強くなるのかを説明しようとしていたのだが、する前におまえが来た」

 アドリアンは大真面目に答えているようだった。
 じと、とノージーが探るような視線を送っても、困ったような顔をしている。もっとも、彼は無表情が常なので、めざといノージーだから気づいたようなものだけれど。
 そんなアドリアンの様子に、どうやら彼は本当にピケを鍛えたいだけらしい、とノージーはようやく納得したのだった。
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