男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「キリル王太子殿下とイネス様の結婚を反対している者がいる」

「この国では、他国ほど王族に対して興味がないと思っていましたが……そうでもないのでしょうか」

「アルチュール国にはイネス様を神聖化して信奉している者がいるらしい。あの国は女神を信仰しているから、そのせいもあるのだろう。イネス様を穢されてなるものかと、キリル王太子殿下を悪魔の化身だと言って騒ぎ立てている」

「なるほど。最悪の場合はイネス様もろとも自害する、なんてシナリオも考えられそうですね」

「今はキリル王太子殿下を狙っているようだが……なきにしもあらず、だな」

「はぁ……最も安全だと思って利用したのですが、とんだ誤算だったようですね」

 やれやれとノージーは肩を竦めた。
 イネスとピケはすでに、かなり親密な間柄になっている。今更危険だから侍女をやめて逃げましょうと言っても、彼女は従わないだろう。
 なにせ彼女は、懐に入れた者に対して責任感が強い。あの忌々しい兄たちにさえ慈悲を与えていたのだから、呆れるほどだ。
 とはいえ、そんな馬鹿みたいにまっすぐなところが好ましく、そのままでいてほしくて注意しないノージーは、もっと愚かかもしれない。
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