男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「おもしろいもの、だ」

 ジョシュアの視線は、アドリアンに向けられている。
 ピケの目には何の変哲もない──無機質な人形のように無表情の──アドリアンしか見えない。
 顎を引いて怪訝そうな顔をするピケに、ジョシュアが「当事者にはわかんねぇか」と笑った。

(当事者っていうか……そもそもあの人の顔、朝見た時から一切変わっていませんから!)

 訳知り顔で一人頷く恩人に、ピケは困るばかりだ。

(見るに、ジョシュアっていう人は総司令官様と仲が良いみたいだし……私がわからないというより、この人が総司令官様のことをよくわかっているだけなのでは?)

 改めて見てみても、なにがおもしろいのかちっともわからない。
 どう反応したものかと困ったように服の裾を握っていると、ジョシュアは寂しげな、乾いた声で笑った。

「わかりにくいかもしれねぇが……アドリアンはあれでお嬢さんのことを気に入っているのさ」

「わかりにくいっていうか……まるでわかりませんでしたけど」

「ハハ。あいつはな、気に入ったやつしか指導しないんだ。なにせ総司令官様だ。忙しいに決まっている。いくらお嬢さんが特別な立場だとしても、総司令官自ら指導する必要なんてない。他に適任がいくらだっているからな」

「気に入られているんですか、私……?」

「さっきまではそうだったな」
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