男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 特別訓練中の休日は回復することを優先していたので、こうして二人きりで外出するのは久しぶりのことだ。
 だからだろうか。いつもなら楽しいだけであるはずの外出が、今日は妙に胸がざわついている。

(今更、ノージーに緊張している……?)

 なるべく普段通りに振る舞おうとしているのだが、さじ加減を忘れてしまったかのようにうまくいかない。
 ついさっきなんて、彼の腰に抱きついてしまった。普段の彼女なら、そこまでしないはずである。

(いや、でもさ。それはノージーだって同じなんじゃない?)

 以前の彼であれば、腰に手を回したりしなかったはずだ。
 せいぜい、頭を撫でるくらいだろう。

(この妙な感じは何なのかしら? お互いに探り探りというか……登りたいのに登れない階段に挑んでいるような気分だわ)

 せっかく、特別訓練を無事に乗り切ったご褒美にパーっと何かしようと王都へ来たのに、気分はモヤモヤしっぱなし。
 その上、ノージーは総司令官とピケのうわさを気にしていじけてしまっている。

(これじゃあ、心置きなくパーっとできないじゃない)

 ピケはこれじゃあいけない! と立ち上がった。
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