男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 せっかくの休日なのである。心置きなく、ノージーと二人きりの休日を満喫したい。

(そうと決まれば、まずは誤解を解かなくては!)

 むん! と意気込みながら、ピケはノージーを見上げ、子どもに言い聞かせるような優しい口調で話しかけた。

「ノージー、あのね? 総司令官様のことは、あくまでうわさ。さっきも言ったけれど、特別訓練ではかなりひどい扱いを受けたわ。私、ちょっと泣いちゃったもの」

「好きな子をいじめたいタイプなのかもしれません」

 ジメジメした声で、ノージーは答える。
 帽子を被っていて見えないが、耳はヘニャリと伏せていそうだ。
 珍しく情けない様子の彼に、ピケの心はわた毛でくすぐられた時みたいにムズムズする。
 人はそれを「母性本能がくすぐられる」と言うのだが、一生懸命言葉を選んでいる彼女が思い至ることはなかった。

「それにしたって、度が過ぎるくらいだわ。私が倒れたって、休むなって怒鳴るのよ」

「ピケが強いから、ついやりすぎただけかもしれない」

「そうだとしても。私がそんな人を好きになると思う? 答えは、いいえ、よ。だって私の心はそもそも、男の人を好きになるかどうかも怪しいんだから」

「じゃあ、僕は?」

 ノージーの問いかけに、ピケは逡巡した。
 いい加減なことは言いたくない。そう思ったから。
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