男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「どういうことか、とはこちらが聞きたい」

 足を組み、偉そうに座っている彼は、本当にあのキリルなのだろうか。
 実は影武者なんじゃないかとピケが思うくらい、彼の雰囲気は刺々しかった。

「ガルニール卿とは誰だ?」

「ガルニール伯爵クーペ・コンカッセ……アルチュールの国教、テト神教の枢機卿の一人ですわ」

「では、王族が婚前に行わなくてはならない儀とはなんだ?」

「わかりません……そんなもの、聞いたことがありませんから」

 テト神教は、女神テトを崇め奉る宗教である。
 猫耳を持つ獣人の女神はその容姿から人々に恐れられていたが、諦めずに人々を救い続けてきた結果、アルチュールで崇め奉られるに至った。
 困った時はお互いさま。これは、女神の口癖だったと言う。

(食事の前に祈ったり、困った時はお互いさまって手を差し伸べたり……他の宗教と変わらないように見えたけどなぁ)

 信仰するものがないピケだから、わからないのだろうか。
 威圧的なキリルに圧倒されてか、イネスの手が震えているのが見えた。
 罰を受ける時の自分を思い出して、ピケの肩がギュッと強張る。
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