男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 ノージーの話はまだ終わらない。
 立ち上がったままだったイネスがしおしおと着席したのを合図に、彼の話が再開される。
 できる侍女である彼は、イネスへハンカチを渡すことも忘れなかった。

「キリル様の暗殺がことごとく失敗し、もはやこれまでとなった彼らがすることは、ただ一つ」

 そして、信奉者たちは考える。愛すべき王女様を殺す役目は高貴な者ほどふさわしい、と。
 そうして選ばれたのが枢機卿であるガルニール伯爵であり、王族が婚前に行わなくてはならない儀とは、イネス暗殺のためにでっち上げられた架空の儀式なのではないか。

 間もなく、ロスティには本格的な冬がやってくる。
 豪雪は天然の要塞(ようさい)となり、ロスティから出ることも、入ることも叶わなくなるだろう。
 そして、春になればイネスは結婚してしまうとあっては、まさに今が、最後のチャンスなのである。

「この時期を選んだのは、あえてかもしれません」
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