男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 そんな中、ハラリと床へ落ちた手紙を拾ったノージーが、鼻をクンとひくつかせる。

「これ、柑橘系の匂いがしますね。炙ったら文字が出るのではないでしょうか?」

 うっかり流されそうになっていたピケは、ノージーの言葉にハッとわれに返った。
 甘い空気を振り切るように、ことさら明るい声を出す。

「え、うそ。すごい、なんか陰謀の香り……!」

 ピケのひっくり返った声に、ノージーはクスクスと笑った。

「なんですか、陰謀の香りって。読書するようになったのはすてきなことですが、変なことを覚えるのはほどほどにしておいてくださいね、ピケ」

「はぁい」

 そんなことを言い合いながら、ピケとノージーはイネスの部屋にあった燭台に火を灯し、手紙を炙ってみた。

「おやおや」

「うわぁ」

 浮かび上がった文字に、感嘆の声を漏らす。

『ヨルヲテラスホシトナリ、ワレラヲミマモリタマエ』

 それは、アルチュールの言葉。
 女神テトの最後をなぞらえたその意味はおそらく、『乙女であるうちに命を断ちなさい』だろうと思われた。
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