男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている

 ガルニール卿が王都へ到着したのは、手紙が届いてから数日後のことだった。
 今にも雪が降りそうな、どんよりとした空の下。それに反比例するかのように鮮やかな色合いの派手な馬車が入ってくる。
 窓に張り付くようにしてガルニールの到着を、ある意味今か今かと待っていてイネスは、とうとう耐えきれなくなったらしく、踵を返した。震える体を抱きしめながら、ソファへ腰掛ける。その顔は、真っ青だった。

 ピケとノージーがイネスの代わりに外を眺めていると、しばらくして馬車から細身の男が降りてきた。
 浅黒い肌に艶やかな黒髪は、アルチュールの特徴らしい。どことなく不健康そうに見えるのは、長旅のせいだろうか。
 細い眉に、ややつり上がった目、細い顎は神経質そうに見える。

「うわ……」

 見るなり、ピケが言った。
 その隣にいたノージーも、ピケの「うわ」に込められた言葉の意味を理解してか、唇に拳を当てながら小首をかしげ、

「そうですねぇ……話す時も口が小さく閉じているので、ボソボソとしゃべっているのでしょう。神経質な人の特徴の一つです」

 と言った。
 そんなノージーにイネスは「その通りよ」と答える。
< 172 / 264 >

この作品をシェア

pagetop