男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている

 窓の外では、とうとう初雪が降り出していた。
 数日前から降り出していたら、もっと違う展開になっていたのだろうか。
 チラチラと舞う雪を視界の端に留めながら、ピケは思った。

 あれほど待ち焦がれていた雪が降っているというのに、イネスの表情は暗い。
 もしかしたら彼女は、初雪にも気づいていないのかもしれない。
 だって、彼女にとっては招かれざる客でしかないガルニールが、目の前で茶を飲んでいるのだから。

 より近くで見ても、ガルニール卿は神経質そうな男だった。
 落ち着きなく周囲を見ている様子は、まるで巣穴から出ている時の野ねずみのよう。ちょっとでも突いたらキーキー怒りそうだ。
 黒い革の手袋をした両手をずっと組んでいるのは、もしかしたら助けを乞うて神に祈りを捧げているのかもしれない。熱心なことだ。

 狩猟本能が刺激されそうだと思ったピケがこっそりノージーを見てみると、彼のスカートの後ろがわずかに盛り上がっていた。スカートの中では、興奮に尻尾が反応しているに違いない。
 盛り上がっていたのが前だったら大問題である。ノージーが変態扱いされなくて良かった、とピケはこっそり安堵(あんど)した。
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