男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「ええ、そうですわね」

「戦場で手を失った時、痛みに叫ぶ私を看てくれたこと、今でも感謝しているのですよ」

 ガルニールの言葉を聞いたピケは、ギョッとした顔で革手袋を嵌めた手を見た。
 そんな彼女にノージーが「義手ですね」とささやく。
 なるほどと頷くピケの前で、イネスとガルニールの会話は続いていた。

「もう何年も前のことよ。気にしないで」

「いえいえ、そうは参りません。いつかあの時の恩返しができればと、ずっと思っていたのですから」

 ようやく果たせる、と言いたいのだろうか。
 ピケの頭に、嫌な言葉が蘇った。

『ヨルヲテラスホシトナリ、ワレラヲミマモリタマエ』

 ガルニールからの秘密の言葉。
 わざわざ炙り出しにしたのは、イネスなら気づくと思ったからなのだろうか。それとも、気づかなくても構わないと思っていたからなのか。

 役目を終えた女神テトは、最期は天へ昇り、星となって今も見守ってくれているのだという。
 女神テトの生まれ変わりであるイネスにも同じ最期をたどれと、そういう意味の言葉なのだろう。

 炙り出しにちょっとはしゃいでいたピケは、イネスの解説を聞いた時、即座に沈黙した。
 キリルが取られまいとするようにイネスを強く抱きしめたのは、言うまでもない。
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