男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
六章

 ガルニールが王城へやってきてから、ひと月がたっていた。
 王族が婚前に行わなくてはならない儀は、まだ行われていない。
 結婚式を挙げる春はまだだいぶ先だし、雪が溶けなければ王都の外へ出ることもできないのだから急ぐ必要はないのだが──一体いつやるつもりなのだろうと、ピケはピリピリしていた。

 当のガルニールはと言えば、ほとんどの時間をあてがわれた客室で過ごしている。
 彼曰く、王族が婚前に行わなくてはならない儀には身を清める必要があるそうで、今はそれを行なっているらしい。

 日がな一日風呂につかっているガルニールを想像して、ピケは顔を顰めた。
 貧相なおじさんの入浴シーンなど、面白いものはなにもない。
 それならいっそノージーの入浴シーンを想像した方が何倍もマシである。ただし、想像した直後に大ダメージを喰らうのは目に見えているが。

(うわぁぁぁ!)

 案の定ダメージを喰らったピケは、仰向けに体を投げ出して叫んだ。実際にやるわけにはいかないので、心の中でだが。
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