男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 モヤモヤとした気持ちが、胸に渦巻いている。「そういうつもりじゃないのに」と無意識に呟いた言葉は的を射ていたような気がしたけれど、その意味まではわからなかった。

 ノージーは、「もしかしたら無意識に危険を察知して、防衛本能が働いているのでは?」なんて心配していたが、それよりもピケは「受け入れ態勢入っていないで注意しろ」と思っているし、言っていた。
 だってそうしないと、いつか仕事を放り出してノージーを探しそうなのだ。迷子の子どもみたいに不安がっていると思われるのが嫌で、理由までは言わなかったけれど。

 ピケの頼みは聞き入れられるどころか無視されてばかりだ。
 ノージーときたら、彼を見つけて駆け寄る時のピケの顔がたまらなくかわいいのだと言って──不意打ちにそういうことを言われて彼女は反則だとキーキーしているが──両手を広げて待っている始末。
 そういう時の彼の顔は煮詰めたジャムよりも甘くとろけていて、ピケは初めてリコリスのあめ(サルミアッキ)を食べた時のように顔をしかめるほかなかった。

 しかも、問題はこれだけでは済まされなかった。
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