男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「あの……ピケ? 握り締めているそれ、あなたが持っている中で一番上等なやつでしょう? そんな大事なもの、さすがに借りられませんよ。確か、ヒヤシンスみたいな……くすんだ青の服をトランクに入れていたでしょう。それを貸してくれたら──」

 美女の言葉を聞いたピケは、目を見開いて彼女を凝視する。
 閉じたトランクを盾のように胸に抱いて、警戒をにじませた声を出した。

「どうしてその服が入っているって知っているの……?」

 ヒヤシンスみたいなくすんだ青の服は、ピケが持ってきた服の中で一番ダメージが強い服だ。
 だけど、それがどうしたというのだろう。今は彼女が遠慮して粗末な服を選んだということよりも、気にしなくちゃいけないことがある。

「トランクの中を物色したの⁈」

「していませんよ」

「じゃあなんで知っているのよ!」

「なんでって……荷作りしていたのをそばで見ていましたから。知っていて当然でしょう?」

「みっ⁈ は? え? なんで?」
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